2012年10月
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小松めぐみ/KOMATSU Megumi
日々是好食

東京都出身。料理研究家 大原照子の本に影響されて料理に目覚め、10代半ばに独学でフランス料理を学ぶ。立教大学社会学部卒業後、出版社勤務後を経てフリーランスに。2012年3月から9月まで「料理王国」副編集長を務め、10月より再びフリーランスとして活動予定。遠州流茶道準師範。



5250円の良心「アンドセジュール」

料理王国10月号は「料理5000円台の本格フレンチ」特集でした。
この号の表紙と巻頭数ページを飾っていただいたのが、田園調布のフレンチ「アンドセジュール」です。

レストラン業界でもデフレが進む昨今、フレンチでも料理5000円台という価格設定は決して安いわけではありません。とはいえガストロノミックな体験を求める場合には、5000円台はやはり安いと言えましょう。その意味で大変お値打ちなのが、「アンドセジュール」の5250円のコースです。

いつも変わらぬ安心感がビストロの良さだとすれば、ガストロノミックなレストランのよさは変化があること。胃と舌が満たされるだけでなく、心が動き脳が活性化することがガストロノミーの魅力ではないかと私は思います。「アンドセジュール」はテーブルの上のデコレーションにもお皿の上にも季節感があり、五感が心地良く刺激されます。編集部には「アンドセジュール」のファンが多いため、先日、全女子編集部員で伺ってきました(もちろん自腹です・笑)。

5250円のディナーはプリフィクスのフルコースです。メインを2品選ぶか、もしくは前菜を2品選ぶ、もしくは前菜とメインを1品ずつにしてチーズ(またはデザートを2品)をとるという選択もできます。この時は前菜を2品選ぶことにし、アミューズの鯖のコンフィ以下は各自が好みのお料理をいただきました。
ほの温かい鯖のコンフィには2種類のソースとハーブ風味のクリームが添えられ、アミューズといっても手が込んでいます。

カルバドス風味のリンゴを散りばめたフォアグラのテリーヌは、こちらの定番の前菜です。クランベリーとシナモンを練り込んだブリオッシュとともに味わうと、フォアグラのなめらかさとブリオッシュのサックリした香ばしさ、フォアグラの濃厚なコクとリンゴの爽やかさ、クランベリーやシナモンの香り、そしてブリオッシュのバターの風味が溶け合います。シャンパーニュでももちろん合いますが、ラタフィア(ぶどうジュースにマールを添加した酒精強化ワイン)を合わせると香気が際立ちます。

こちらは2品目の前菜として選んだ、焼き茄子のガスパチョです。
今年は夏が長く日中の日射しは9月下旬でも夏のようでしたが、夜になると秋の虫が鳴き、季節の移ろいを感じさせました。そんな時期にふさわしく、夏の名残と秋の気配が同居した一皿でした。
味わいはトマトの酸味がまるくやさしく、スペインとは異なるフランス的なエレガンスを感じさせます。

メインは「本日の限定一皿」として口頭で説明された、ヴァンデ産鳩にフォワグラと黒トリュフを詰めてローストした「鳩のロワイヤル」。本当に5250円のコースの選択肢にしていいの?と心配になってしまう高級料理ですが、せっかくどうぞと言われているのに断る理由はありません!? ヴァンデ産鳩の旨味は、フォワグラをしのぐ濃厚さ。鳩、フォワグラ、黒トリュフと、これだけ濃ゆいキャラが揃うお料理は毎日だと辛いですが、たまになら密の味です。ソースはオーナーシェフの河井さんが私たちの飲んでいたワインに合わせ、やや酸味のある濃厚な赤ワインソースをあつらえてくれました。ゲストが飲んでいるワインに合わせてソースを作るなど、シェフはお料理をより美味しく楽しませるための手間を惜しまない方。付け合わせの緑と白のパスタを鳩形に抜く遊び心にも、顔がほころびます。

お口直しのアヴァンデセールはハイビスカスの香りが華やかな、さっぱりとしたジュレ。デセールはルバーブのスフレをチョイスしました。誇らしげに膨らんだスフレは、ルバーブのコンポートとクリームとともに供されます。プティフールはブラッドオレンジのギモーヴ、オレンジのパート ド フリュイ、ショコラのマカロン。どれもフランス菓子らしい香りと味わいがあります。

アミューズからプティフールまで、シェフのあくなき追求心と向上心に感動する2時間半。それは名指揮者の演奏のような時間芸術でもあります。そして、この魅力とお値打ち感は、フランス料理がそれほど大好きではない方にも分かっていただけると思います。ですから心ある方は、敢えてフランス料理ファンでない方を連れて行って差し上げてください。「もっと多くの人にフランス料理を好きになってほしい」という思いこそ、河井さんが5250円でコースを提供している理由なのです。

●アンドセジュール Un de ces jours
東京都大田区田園調布1-11-10 1F Tel 03-3722-9494

http://www.undecesjours.com/menu.html


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